スポンサード動画が昨年から爆発的に急増、広告なのにビュー数が1000万回超えも続出

2017年2月17日
田中善一郎
マーケティング

スポンサード動画が昨年あたりから爆発的に増えています。特にFacebookにスポンサード動画を投稿するメディアパブリッシャーが際立って増えてきています。

オンライン動画の解析会社のTubular Labsは、メディアパブリッシャーがFacebookに投稿するスポンサード動画を調査し、その結果を図1に示すグラフで公表しました。これによると、2016年にはメディアパブリッシャーがFacebookに投稿したスポンサード動画の件数が前年比で651%増に、そのスポンサード動画のビュー数(再生回数)が前年比で3205%増と、驚異的な立ち上がりを見せています。

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図1 Facebookに投稿されたスポンサード動画の月間件数と、それらの動画の月間ビュー数。2014年1月から16年末までの推移を示しています。破線の部分が月間投稿数で、赤い部分が総月間ビュー数
 
 

なぜスポンサード動画が爆発的に急伸しているのでしょうか。その前提としてメディアパブリッシャーが一斉に、オンライン動画コンテンツに取り組む背景があります。

4、5年前からFacebookを主舞台にしたバイラルメディアがバブル的に急浮上していました。ただし少し前までコンテンツの中心は、写真多用のテキスト系でありました。そのピークが過ぎた2014年あたりから、メディアパブリッシャーが次の新たな集客の目玉として力を入れ始めたのが動画コンテンツでした。その流れを仕掛け、強力に後押しをしたのがFacebookであります。それに応えて、メディアパブリッシャーが主にスマホ向けの短尺(ショートフォーム)動画を、競って投稿していきました。テキスト系に比べ圧倒的にエンゲージメントが高いこともあって、ビュー数(動画の再生回数)もうなぎ上りに増えていきます。確かに2015年ころから、Facebookのニュースフィードで、頻繁に動画コンテンツに出会うようになってきました。

Tubularの調査によると、メディアパブリッシャーがソーシャルメディア(複数)に投稿した動画が、2016年には一日あたり36億回も視聴されました。2015年が17億回/日であったので、前年比112%増もの急成長となりました。2017年もさらなる成長が期待されています。ここで代表的なメディアパブリッシャーとは、BuzzFeed,NowThis, Tastemade, WWE, the NBA,  FailArmyなどです。またソーシャルメディアとしは、米国をはじめとする多くの国で、Facebookが断トツのシェアを占めています。

ただメディアパブリッシャーの動画が盛んに視聴されるようになってきたが、2015年ころまでは収益化に結び付いていませんでした。それが図1に示すように、2016年に入ってスポンサード動画が急激に増え、収益化も軌道に乗ってきたのです。2017年はスポンサード動画にとって飛躍の年になる、とTubularが持ち上げています。

 

Doleと組んだTastyのスポンサード料理動画、3500万回のビュー数を達成

ここでスポンサード広告の実例を紹介しましょう。取り上げたのは、BuzzFeedが運用している料理動画メディアTastyが昨年夏に制作したスポンサード動画です。広告主は、米国の多国籍農業・食品企業Dole(ドール)です。バナナやパイナップルの輸入果物で、日本でもお馴染みの会社です。

TastyはDoleと一緒になって、昨年夏にサマー・ドリンクのキャンペーンとして、次の3本のスポンサード動画をFacebookにアップロードしました。Tastyは世界トップクラスのレシピ動画メディアですが、スポンサード動画も編集動画と同じスタイルで制作されています。ただしDoleのスポンサード動画には、同社が販売するパイナップルや缶ジュースなどが食材として登場していました。広告なのに、ビュー数が1500万~3500万回、いいね!が24万~38万人、シェア数が11万~47万件と、編集記事に劣らない凄い成績を上げています。またFacebookでは素早くコンテンツが拡散しやすいため、今回のスポンサード動画はキャンペーン期間の夏に効果的に視聴されたようです。

  • Vodka Pineapple Soft-Serve(2016年7月2日に投稿、ビュー数:2303万回、いいね!:25万人、シェア:18.4万件)
  • Pineapple Palomas(2016年8月6日に投稿、ビュー数:3528万回、いいね!:38万人、シェア:46.9万件)
  • Pineapple Lime Punch(2016年9月2日に投稿、ビュー数:1522万回、いいね!:24万人、シェア:10.8万件)

広告動画でもこのように大きなビュー数を獲得できたのは、一つにTastyブランドの集客力が寄与したからでしょう。Tasty(US)の料理動画は、2016年の1年間で230億5037万回も視聴されましたが、その9割以上がFacebook上で再生されています。TastyのFacebookページは現在、8169万人のフォロワーを抱えており、物凄い多くの人がTastyの料理動画を目にすることになります。フィードに流れるTastyの料理動画と同じインタフェースでスポンサード動画も現れるのですから、スポンサード動画も多くの人に視聴されることになります。一方でDoleのFacebookページに投稿された動画のほとんどは、ビュー数が1万回に遠く届いてません。

実際のDoleのスポンサード動画を図2に貼り付けておきますので、ご覧ください。

 

図2  Doleのスポンサード動画「Pineapple Palomas」。37秒の短尺動画
 

スポンサード動画の流れは、日本にも打ち寄せています。国内の料理動画で先行したエブリー(代表取締役・吉田大成氏)の「デリッシュキッチン(DELISH KITCHEN)」も、食品メーカーなどと組んでスポンサード動画を提供しています。最近のスポンサード動画例を図3に掲げておきます。広告主はロッテです。Facebookにアップロードされた動画「濃厚なのに軽い口あたり!ベイクドチーズチョコバーの作り方」は、投降後6日で早くも25万回も再生されていました。日本の市場においても、料理動画広告だとかなりのビュー数を獲得できるようです。 

図3 デリッシュキッチンのスポンサード動画「濃厚なのに軽い口あたり!ベイクドチーズチョコバーの作り方」。2月10日にFacebookに投稿された料理動画で、長さは1分14秒です

◇参考

 

著者紹介
田中善一郎
田中善一郎
IT/メディアジャーナリスト。日経BP社で雑誌編集長、インターネット担当役員などを歴任。ブログ「メディア・パブ」(http://zen.seesaa.net/)にて海外のマスコミ・ウェブサービスを中心に、オンラインメディアの分析を行う。