CNNが広告向けコンテンツスタジオを立ち上げ、ニュース価値あるスポンサード動画を制作

2015年6月12日
田中善一郎
マーケティング

メディアサイトでは、編集コンテンツだけではなくて広告でも、動画がやたらに増えてきました。フェイスブックのニュースフィードでも最近、動画コンテンツと頻繁に出会うようになってきました。ソーシャル系サイトでも、SnapchatやVineのような動画ベースのSNSが、若い人を中心に人気急上昇です。

動画広告の市場も図1で示すように急伸しています。eMarketerの調査によりますと、2014年の動画広告費は米国で59億ドルと、前年比でプラス56%も急上昇しています。今年も前年比30.4%増の高成長を続け、78億ドル近くに達すると予測されています。ネイティブ広告のコンテンツでも、動画の採用が一段と盛んになっています。

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図1 米国市場におけるデジタル動画広告費の推移。動画を含む広告が対象。(ソース:eMarketer)

 

そこでCNNは、スポンサード動画コンテンツを専門に制作するスタジオを立ち上げることにしました。このようにネイティブ広告専門のコンテンツスタジオを設け、質の高いコンテンツ作りに励んでいるメディアとしては、NYタイムスやバズフィード、WSJなどが先行しています。CNNの場合は、動画コンテンツを中心に、TVも含めたネイティブ広告事業に力を入れていきたいようです。それと、NYタイムスやWSJと同じく、外部に対して編集と広告の独立性を示す必要があったのでしょう。そこで編集コンテンツを作る部隊と、広告向けコンテンツを作る部隊とを、はっきりと別組織にしておきたかったのです。

CNNはケーブルテレビ向けのニュース専門放送会社ですが、Webのニュースサイトも拡充しているし、最近ではSnapchat向けに独自制作したニュースコンテンツを配信しています。CNNのニュースサイトはテキスト系のニュース記事も充実させ、新聞社のニュースサイトやハフィントンポストなどの新興ニュースサイトとも競合しています。図2に示すように、2015年1月調査のユニークビジター数では1億人を突破し、全米ニュースサイトで第2位の人気サイトになっています。

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図2 米国市場におけるオンラインニュース・サイトのトップ10.。2015年1月の月間ユニークビジター数によるランキング。単位は1000人。Pew Research CenterとcomScoreの合同調査(ソース:Pew Research Center)

 

Webサイトの動画としては、TVコンテンツの焼き直しだけではなくて、Web向けのオリジナルコンテンツも提供しています。そのために1年前にCNNデジタルスタジオを設立しました。ただしこのスタジオは、あくまで編集コンテンツ(主に動画)を制作するための組織です。CNNのサイトでも、動画の視聴数が増えてきており、今年1月には前年同月比48%増の2億ビューを超えました。でも3億5400万ビューのハフィントンポストに引き離されています。動画メディア会社のCNNとしては、動画コンテンツで新興メディアの後塵を拝するのは許せないはずです。Webサイト向けの動画を独自制作して追いつきたかったのでしょう。新設のCNNデジタルスタジオで昨年1年間に18本のシリーズ(特定トピック)動画を制作し、発信しました。そのうち17本にはそれぞれ、トヨタなどの特定広告主が付きました。このように、動画コンテンツの人気が急上昇し、広告主も関心を寄せているとなると、動画コンテンツのネイティブ広告を仕掛けなくなります。そこで広告主のために動画コンテンツを専門に制作する新しいスタジオを立ち上げることになったのです。

 

ニュース風のブランドコンテンツを

CNNのスポンサード動画コンテンツはどのようなものになるのでしょうか。CNNのサイトでは動画コンテンツ、つまり動画ニュースが頻繁に視聴されるようになっているのですから、スポンサード動画コンテンツも同じようなニュース風にすれば、オーディエンスにすんなりと受け入れてもらえるでしょう。たとえば、広告主が実施している慈善事業とかをニュースっぽく動画で伝えたりするコンテンツです。

新組織のスタジオを指揮するのは、オグルヴィ・エンターテイメント(Ogilvy Entertainment)でクリエイティブ・ディレクターを務めていたOtto Bell,氏です。ジャーナリスト、動画プロデューサー、デザイナーなど12人くらいでスタートする予定です。ジャーナリスト的な本能を備えたスタッフが、ニュース価値がある要素を見つけ出し、それをコンテンツに盛り込んでいくそうです。どのようなニュース風スポンサード動画コンテンツが出てくるかを注目したいです。

 

◇参考

 

著者紹介
田中善一郎
田中善一郎
IT/メディアジャーナリスト。日経BP社で雑誌編集長、インターネット担当役員などを歴任。ブログ「メディア・パブ」(http://zen.seesaa.net/)にて海外のマスコミ・ウェブサービスを中心に、オンラインメディアの分析を行う。