若者の大半、編集コンテンツが無料であればネイティブ広告を容認

2016年9月13日
田中善一郎
マーケティング

知らないままに、ネイティブ広告と出会うことが近頃増えてきたようです。

編集記事と思って接したコンテンツが、実は広告であった。こうしたことをたびたび経験しませんか。デザインやフォーマット、それにコンテンツの中身までも編集記事に合わせようとするネイティブ広告では、なおさらです。編集記事と紛らわしくならないように、ネイティブ広告には何らかの形で広告であることを明示することになっているはずです。それでも、なかには明示の仕方があいまいな場合もあって、ネイティブ広告を“広告”と意識しないで接しているオーディエンスが少なくないようです。

こうした現状のネイティブ広告に対して、オーディエンスはどのように受け止めているのでしょうか。調査会社YouGovがこのほど、成人のインターネットユーザーを対象に、ネイティブ広告の意識調査を実施していたので、その結果を紹介しましょう。

まず、ネイティブ広告そのものの概念を知っているかを質問しました。ネイティブ広告は、サイトの通常のコンテンツと似通った形で現れる動画や記事であり、また商品や企業をプロモーションするためのペイド広告であることも知っているかを問いただしたのです。すると成人のインターネットユーザーの58%しか、ネイティブ広告の概念を理解していませんでした。つまり約4割のユーザーは、ネイティブ広告がどのようなものかをほとんど知らないということです。

ただ現時点で大事なのは、ネイティブ広告を理解している約6割を占めるユーザーが、ネイティブ広告を受け入れているかどうかです。そこで、ネイティブ広告を理解しているユーザーに対して、もしサイトのコンテンツが無料なら、ネイティブ広告を容認するかどうかを聞いてみました。図1がその結果です。

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図1 ネイティブ広告を理解しているインターネットユーザーの中で、何%がネイティブ広告を容認しているか? YouGovの調査より

 

4世代に分けて、容認派と非容認派の割合を示しています。若い人ほど、ネイティブ広告に抵抗感を抱いていないと言えます。30歳以下の若年層では65%が容認し、容認していない人はわずか19%です。逆に45歳以上の中高年層では、40%以上の人がネイティブ広告を容認していません。このため、ネイティブ広告を掲載する場合は、広告であることをしっかりと明示すべきでしょう。

高齢者ほど、編集と広告との識別にうるさいことは間違いなさそうです。一方で、その識別に無頓着な若者が多いのも事実です。今回のYouGovの調査でも、30歳以下のインターネットユーザー(ネイティブ広告を理解しているユーザーのみ)の半分は、コンテンツが面白かったり役に立つものなら、編集記事であろうと広告であろうと、どちらでも構わないと答えていました。

最近のネイティブ広告の調査としては、雑誌社を対象にしていますが、Native Advertising InstituteがFIPPと共同で実施しています。39か国140雑誌の幹部を回答者として、今年の4月から5月にかけて行った調査です。”Native Advertising Trends 2016 – the Magazine Industry“で詳細に報告されています。その中から、気になった2点を紹介します。

雑誌社がネイティブ広告を展開するために、どのような対応を打ったか? その回答結果が図2です。少し驚いたのは、回答者の68%が、自社の編集チームが対応していると回答したことです。回答者には伝統的な紙の雑誌パブリッシャーが多いようで、編集記事並みの質の高いネイティブ広告コンテンツを制作したいためでしょう。編集の独立性といった、綺麗ごとを言ってられないのかもしれません。でも一方で、大手雑誌社を中心に、独自のネイティブ広告スタジオを設けたり(31%)、分離したネイティブ広告チームを用意しています(24%)。

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図2 雑誌社のネイティブ広告対応。Native Advertising InstituteとFIPPの調査より

 

順調に離陸しているネイティブ広告ですが、YouGovの調査にもありますように、まだまだ中高年者を中心に批判が少なくありません。それだけに、これからもリスク対策を怠らないようにすべきでしょう。雑誌社が主に気を配っていることは、次のような項目です。

  • 編集と広告の独立性の欠如(45%)
  • 広告主のネイティブ広告に対する理解の乏しさ(41%)
  • オーディエンスのエンゲージメントが不十分(34%)
  • ラベリング(広告であることの明示)の不足(29%)
  • 広告ブロック対策(18%)

 

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図3 雑誌社が抱えているネイティブ広告に関する心配事。Native Advertising InstituteとFIPPの調査より

 

オーディエンスからの批判で気を付けるべきことはラベリングの欠如です。拡散しやすいだけに注意すべきでしょう。回答者の11%が、ラベリングを実施していないと答えていました。若者向けのエンターテイメント系メディアなら、問題が起こらないかもしれませんが、これからのネイティブ広告のためにも、ラベリングはきっちりと遂行したいものです。

 

◇参考

 

著者紹介
田中善一郎
田中善一郎
IT/メディアジャーナリスト。日経BP社で雑誌編集長、インターネット担当役員などを歴任。ブログ「メディア・パブ」(http://zen.seesaa.net/)にて海外のマスコミ・ウェブサービスを中心に、オンラインメディアの分析を行う。