ネイティブ広告がもたらしたもの

2019年5月21日
吉永浩和
マーケティング

こんにちは、ログリー代表の吉永です。令和元年となりましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?

広報担当から「LOGLYブログで一番読まれている記事は『ネイティブ広告とは何か?』なので、その続編を書いてください」と半ば強制的に宿題を出されていましたので、改元となった今年、ネイティブ広告について振り返ってみることにしました。

先の記事を書いたのが2014年2月。当時は日本でネイティブ広告の市場は確立しておらず、海外で少し盛り上がりを見せ始めている時期でした。

あれから5年、当社の状況も大きく変わりましたが、それは同時に市場も変わったからにほかなりません。改めてこの5年という月日でネイティブ広告が日本のインターネット広告市場にもたらしたものは何かを振り返るとともに、今後の課題と期待について触れたいと思います。

数値で見るネイティブ広告市場

ネイティブ広告はいくつかの種類に分類されますが、とりわけインフィード広告とレコメンドウィジェットの2つが市場を牽引してきました。

インフィード広告市場

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まずインフィード広告の市場推移を見てみると、図にあるように年成長率16%くらいで伸びています。業界の実データが公開されているわけではないので、あくまでも自社データに基づく感覚値ですが、概ね間違っていないと思います。

2012年以降のRTBを全盛としていたディスプレイ広告から、スマートフォンの登場によってタイムライン型のUIを採用したサイトにマッチした広告枠の流れが出始め、インフィード広告はそれを実現する方法としてディスプレイ広告に取って代わるようになりました。

レコメンドウィジェット市場

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また、レコメンドウィジェットの市場推移を見てみますと、インフィード広告以上の60%の年成長率となっており、これも感覚値としては近い数値ではなかろうかと思います。ディスプレイ広告がインフィード広告に取って代わっていったのと違い、レコメンドウィジェットは今までになかった記事下の新しい枠として、ユーザーの回遊とメディアの収益を純増させることができるようになりました。

今や国内のネイティブ広告市場には、インフィード・レコメンドウィジェット合わせて30社近くが参入するなど、市場規模の割にかなりレッドオーシャン化している状況です。

ネイティブ広告の意義

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「ネイティブ広告とは何か?」を書いた当時、定義が曖昧なため、どのように利用するのかを広告主が模索している段階でした。そこで米国IABや日本のJIAAが混沌とした状況を打破するべく、ネイティブ広告の定義とルールをまとめました。

THE NATIVE ADVERTISING PLAYBOOK
ネイティブ広告に関する推奨規定

この中での重要なポイントは、以下の2点。

メディアのデザインに統合されていること

メディアの機能に統合されていること

1つ目のデザインへの統合は、今までフォーマット化されていたディスプレイ広告と異なり、メディアのデザインに合わせて自然に溶け込ませて広告枠を設置するというものです。そして、2つ目は、メディアにおけるユーザー体験を既存のコンテンツと同じにするというもの。例えば、コンテンツメディアにおけるネイティブ広告枠からの遷移先は、コンテクストの一致したコンテンツページに遷移させる、というものです。

ちょうど同時期にコンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングも活況を呈し、コンテンツを用いて潜在顧客にアプローチする手法が注目されました。それまでのRTB中心のディスプレイ広告はターゲティングを主体とした顕在顧客にアプローチする手法として広く利用されている中、コンテンツメディアのユーザー体験とコンテンツを用いたマーケティング手法の相性の良さから、潜在顧客を集客する目的としてネイティブ広告が利用され始めたのです。

現状と課題

ネイティブ広告に終わりはない

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この数年、メディアのデザインこそ違えど、インフィード広告やレコメンドウィジェットは一般的になり、ある種フォーマット化しました。メディア側も、サイトリニューアル時にはそれらネイティブ広告を導入する前提でデザインを構築するようになりました。

一方で、このフォーマット化した現状がネイティブ広告の最終形であるかのようにどのメディアでも似たフォーマットになってきています。本来は媒体のデザインがあってそこに溶け込ませるはずの広告枠が、ネイティブという本来はフォーマットがないにもかかわらず定型化したことで、それを前提としたサイトのデザインになっているのではないかと思うわけです。

これは形こそ違えど、ネイティブ以前のバナー広告が普及した時と似たような状況なのかもしれません。

では、この先ネイティブ広告はどうなるべきでしょうか。私はネイティブ(自然な)という言葉の意味する通り、メディアが存在している限り最終形というものはなく、ネイティブ広告はネイティブなものとして続いていくべきと考えています。それはある種の生命が徐々に形を変えて環境に順応していくがごとく、広告枠も媒体という変わりゆく環境に徐々に順応しながら形を変えていくのです。

だからこそメディアも我々広告事業者も今の形式が終わりではなく、メディアのデザインや機能が変わるのに合わせて、ネイティブ広告を創出し続ける必要があります。

今こそ広告に有用性を

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次に、どんな広告を誰に表示するのかを考えるのも重要なタイミングになってきました。ネイティブ広告市場が確立してからというもの、さまざまな広告主が試行錯誤を繰り返しつつ、利用するようになりました。

とりわけネットで購買まで完結させるダイレクトレスポンス型の広告は、ディスプレイ広告だけでなく、ネイティブ広告でも広く利用されるようになりました。ダイレクトレスポンス型においても製品のスペックを直接訴求するのではなく、コンテンツを通して製品の意味を訴求することで、潜在顧客を顕在化して購買まで結びつけることが可能となりました。

また、ブランディングを目的とした広告もネイティブ広告の登場以降増え続けています。オウンドメディアで訴求したブランドのストーリーやメディアとタイアップしたコンテンツなどを通してネイティブ広告から大きくリーチを獲得し、認知拡大や購入意向喚起などの態度変容を実現していくことが可能となりました。

一方でコンテンツの内容の良し悪しが問題になるケースも出てくるようになり、広告主や我々事業者がコンテンツの品質と有用性をより注視する必要があります。さらに、データとテクノロジーを駆使し、誰にどの広告を配信するのかを意識する必要があります。広告というものが消費者に見向きもされなくなった状況を打破する役目としても登場したネイティブ広告。その意味について、再度立ち返る必要があると考えています。

将来の展望

ネイティブなユーザー体験へ

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ネイティブ広告市場は先の図にもある通り、まだまだ成長していくポテンシャルを持っています。スマートフォンが登場してインフィード広告が広まっていったように、今後も新たな媒体やデバイスの登場によって、その中に自然に広告が提供されていくことは間違いありません。そして今後もっとも重要になるのがネイティブなユーザー体験です。

例えば、都内のタクシーで展開されているデジタルサイネージでは、車内で持て余していた時間に映像コンテンツを提供することで、ユーザーに新たな車内体験を提供し、その延長線上に動画広告が提供されるようになってきました。ここで実現したことは、見た目を合わせるだけでなく、ユーザー体験の延長線上に広告を展開していくということなのです。

また、今後5G回線が本格的に整備された際には、静的コンテンツだけでなく動画やAR、VRといった動的コンテンツが益々普及し、それに統合された広告も登場してくることでしょう。我々の生活導線の中に、自然と広告が寄り添う姿が「真のネイティブ広告」であると信じています。

著者紹介
吉永浩和
吉永浩和
ログリーの代表です。データ分析をコアコンピタンスとして、アドテク事業/メディアテクノロジー事業を展開しています。